矢並小では、希少な湿地のすばらしい自然を伝えるために、毎年5,6年生の子供達がガイドになって、一般の人々に紹介しています。そのガイド学習のお手伝いを9年間させていただきました。そこで大切だと思ったことの一部をご紹介します。


まず、子ども達にガイドとは何かということを理解してもらうために、校庭に出て私のガイドを受けてもらいます。

 

 ガイドといっても、ただ上手に自然のことを説明することではありません。大人のように知識や表現力もない子どもに、いきなり説明上手なガイドになることは難しいからです。

 

 そこでここでは体験型のガイドを目指すようにしました。お客さんに自然をまず体験してもらって、その体験にどんな意味があったのかを、自分なりの感性で解説する方法です。

 

 この場面では、シロツメクサのおしべの形を観察してもらってます。この観察から、ミツバチとの送粉関係を明らかにしようというものです。

おしべを観察していると、いろいろなことに気づきます。先っぽが黄色だったり、途中から折れ曲がったり・・・

 

そんな子ども達の気づきを拾い上げます。

 

実は、この子ども達の気づきが一番大切です。

 

この気づきを活かすことで、本質に迫ることができるからです。最終的には、ミツバチの体に花粉がつきやすい構造になっていることに気づいてもらうわけですが、それ以外の途中の子ども達からのあまり関係のない気づきも大事になってきます。

 

子ども達がどんなことを言ってもいいんだという場を作り上げることが、この場面での真の目的です。

人に何かを伝えるとき、なんでやっているのか、何のためにやるのかが明確ではないと、伝わらないことがあります。特に、学校では、どうしてもやらされている感がでてしまいがちです。

 

これからやろうとしていることを、学習のためだけではなく、自分ごととしてとらえる必要があるのです。

 

そのために、まずみんなの「思い」を集約することにしました。これまでの湿地の活動を思い出し、どんなことを伝えたいのか、付箋でグルーピングします。

 

最後のふりかえりで、このグルーピングした「思い」をもう一度見直します。自分達がしてきたことが、最初に思い描いていたことと比べてどうだったのかを確認することで、思いの大切さを理解してもらいたいと考えています。

 

この学習を自分ごととしてとらえるためには、やはり私は「おもしろさ」だと思っています。「自分が面白いと思ったことを伝える。そうすれば、聴いている人も面白いと思うはず」このことを必ず最初に伝えます。その例として私自身が面白いと思ったエピソードをお話ししました。そうすると、やっぱり子ども達は面白がってくれる。本当なんだなあと思ってくれるわけです。

 

ガイドで何を伝えるのか、テーマ探しをするときに、子ども達には、なるべく実物の面白さを引き出してほしいと言っています。昆虫なり、植物なり、じっくりと観察すると、不思議なことがいっぱいある。その面白さは実際に観察、体験しないとわからないことなんです。

 

そういう子ども達がみつけた面白さは、大人でも敵わないことがたくさんある。これは、9年間で子ども達から学んだことです。

 

子ども達がみつけた「面白さ」をどう伝えるのか。もちろん、私のほうから、プログラムの「導入」「展開」「まとめ」といった流れや注意するポイントは事前にレクチャーします。

 

大事なのはお互いに学びあうということです。ここでは、班ごとで企画を立てて、他の人に発表します。その際に「良かったこと」「改善したほうがよいこと」をその班になげかけます。そのフィードバックを受けて、また企画を練り直すという流れです。

 

実は、この過程が一番難しいところです。普段の人間関係から言いたいことが言えない状況だったり、的外れなことを言って、恥ずかしい気持ちになるのが嫌な子もいると思います。だから、私自身が子ども達にフォードバックすることで、こんな風にフィードバックできるよと見本を示すようにしています。本当は、もっと時間をかけて、フィードバックしやすい雰囲気を作っていく必要があると思っています。先生方が、子ども達に様々な働きかけをしてくださっているので、助かっていました。

 

いよいよ、子ども達が企画したものが、一般の人にガイドする日。子ども達は、めちゃくちゃ緊張しています。そのため、緊張をほぐすためのゲームをいくつかやります。

 

そうすると、緊張がほぐれて、顔の表情もいい感じになってきます。そして前向きにチャレンジする気持ちができてきます。

 

子ども達が緊張しているのは、それだけ真剣に取り組んできているからだと思います。真剣に取り組んで失敗することもあるでしょう。失敗を恐れずにチャレンジするモチベーションを作り出すことが大人の役割でもあります。

 

ガイドが終わって、それまでの学習のふりかえりをします。ガイドをした経験でどんなことがよかったことなのか、次やるとしたら何に気をつければよいのかを、みんなで出し合います。

 

ここでのふりかえりで多いのは、ガイドを受けた人からの反応の声です。「一生懸命やっている姿に感心した。これに関しては、こんなことがあるんだと教えてもらった。」など、様々な反応があります。実はこれが最大の学びのポイントで、先生や周囲の大人が指摘するよりも、実際のお客さんからの反応は、子ども達の大きな気づきや学びに直結するのです。

 

なにより、私は子ども達に自信をつけてほしいという気持ちでやっていました。何かにチャレンジして、フィードバックされる経験はそんなに多くないことだと思います。このような経験がその後の人生での自信の一つになってほしいと願っています。